カルト・ムービーの巨匠!伝記+回想録
『夢みる部屋』
デイヴィッド・リンチ&クリスティン・マッケナ著
山形浩正訳
本書は2018年にアメリカのランダムハウス社より刊行された「Room to Dream」の全訳である。
構成としてはパート毎に共著者であるクリスティン・マッケナによるリンチ周辺の人物へのインタヴューによる評伝、そのあとにリンチ自身による回想録となっている。
さまざまな視点によるリンチ像と、自身による回想でより多面的なリンチ像、作品像が浮かび上がってくる仕掛けとなっている。
読んで驚くのは、周辺の人物やリンチ自身が当時の本当にこまごまとした出来事や会話の内容をよく覚えていることである。
また評伝と回想録で内容がかぶるし、個人的な日常の出来事を読んで面白いのか?という疑問を抱かざるを得ないが、読んでみるとこれが面白い。幼少期の環境や出来事がその後の作品に影響を及ぼしていることがよくわかる。
日本では「エレファント・マン」がヒットし、長編第一作「イレイザーヘッド」も話題となった。
カルト・ムービーの定義をどのように考えるかによるが、数多くの作品が商業的に成功し、カンヌ映画祭のパルム・ドール受賞をはじめとした受賞歴、テレビドラマの人気シリーズ化を考えると単純に巨匠といっても差し支えないとは思いつつも、その日常の裏側にある不気味さ、おぞましさを描いた題材、作風を考えるとまさにカルト・ムービーの巨匠というにふさわしい。
また作風に大きな影響を与えている1950年代のアメリカの田舎暮らしや、混沌としたフィラデルフィア、本格的に映画制作を始めるロサンジェルスなどの時代背景や当時の社会状況も興味深い。
書名:夢みる部屋
著者:デイヴィッド・リンチ
クリスティン・マッケナ
翻訳:山形浩生
発売日:2020年10月24日
仕様:A5判・上製 704頁
価格:本体:4,500円+税
ISBN 978-4-8459-1829-4