今週のお題「本棚の中身」
今週のお題「本棚の中身」ニューヨークのアンダーグラウンドを描く
『アウトロー探偵バークシリーズ』
アンドリュー・ヴァクス 著
佐々田雅子 訳 菊地よしみ 訳
著者のアンドリュー・ヴァクスは、1942年、ニューヨーク生まれのアメリカのミステリー作家です。昨年12月に惜しまれつつ逝去されました。青少年犯罪と幼児虐待専門の弁護士として活躍しながら、ノンフィクション作家としてスタートし、ミステリ作家へ転向しました。転向した理由は、ノンフィクション作品では反響が少なく、より多くの人へメッセージを届けるためだったそうです。「私の書いた小説は、”社会参加の文学”であり、私の最終目標は、単に読者をたのしませることではなくて、多くの人に社会の現実を伝え、その現実に怒りを向けて行動に出るようにさせることなのです」(ミステリマガジン1991年7月号インタビューより)
作品のジャンルとしては、一人称「おれ」で語られる、いわゆるハードボイルドとなるでしょう。またフランス発祥の暗黒小説(ノワール)の側面も色濃く持ち、のちの日本で大きな流行となったノワールブームにも大きな影響を与えました。
孤児院で、自らも虐待を受けて育ったバークは、詐欺などの犯罪を生業としながら私立探偵としても活動をしている。用心深いバークが身の回りに張り巡らせる数々の護身術、防御策が興味深い。その住居は要塞のようで侵入者を寄せ付けず、さらに愛犬の巨大なナポリタンマスチフ、パンジイが守りを固める。
また本当の家族よりも結束の強いバークファミリーも個性的で魅力的だ。表向き中華料理店を営むママ・ウォン、モンゴル人で武術の達人の運び屋マックス、男娼の情報屋ミシェル、天才的な科学技術者モグラ、服役中に出会ったバークの師匠ともいうべきプロフ(プロフェッサー=教授、プロフェット=予言者の両方の意味)。
本シリーズが、凶悪で陰惨な犯罪を描きながらも、変わらぬ魅力を放ち、救いをもたらすのは、闇社会に身を置き、クールに見せて強がりながらも、バーク自身が一貫して弱者であり、弱者の味方であり、彼を支える強固なファミリーがあるからだろう。
「凶手」は単独の作品で、ノンシリーズです。
photoⒸarashi