妖異耽美なレトロミステリーの傑作
『真珠郎』横溝正史著
~由利・三津木探偵小説集成①~
「由利・三津木探偵小説集成」は2017年12月から刊行された「横溝正史ミステリ短篇コレクション」(全6巻)が好評だったために、姉妹企画として2018年12月から全4巻が刊行されました。
コンセプトは「由利麟太郎と三津木俊助のどちらかまたは両方が登場する一般向け※の全作品」を「初出または初刊のテキストに準じて再編集」するものということです。※少年ものを除く。
今回連続ドラマ化された由利先生シリーズは有名な金田一耕助シリーズに先んじて執筆された作品になります。
すべての作品が概ね発表順に並べて収録されており、この第一巻には昭和十年から翌年にかけて発表された六篇が収められています。
収録されている六篇のうち、表題作である長篇「真珠郎」は中でも妖異度、耽美度、怪しい魅力度からいってシリーズ屈指の作品といっていいでしょう。
物語は主人公のX大学英文科講師、椎名耕助の一人称で語られます。
主人公である私は、ある日、毎日のように通い馴れた道である九段の高台から不思議な夕焼雲の形を見てぎょっとして足を止めてしまう。それはあたかもサロメの前に差出された、ヨカナーンの首のようだったのである・・・。このあと物語は信州の浅間山麓へ舞台を移しますが、この冒頭の夕焼け雲のシーンが印象的で暗示的です。
また主人公が友人とともに旅行で訪れ、物語の重要な舞台となる信州N湖畔に佇む「春興楼」は、湖を一望のもとに見下ろす望楼を持っており、とても印象的です。時計塔こそないですが黒岩涙香が翻案し、江戸川乱歩がリライトした「幽霊塔」を想起させます。
終盤には吉祥寺、神田須田町、東京駅、銀座なども登場し、戦前の東京の様子も垣間見えます。由利麟太郎は残り三分の一くらいで登場します。
怪しくも哀しく切ない傑作といえるでしょう。
【収録作品】
獣人
白蠟変化
石膏美人
蜘蛛と百合
猫と蠟人形
真珠郎
付録① 六人社版『真珠郎』序文ほか(江戸川乱歩、水谷準、横溝正史)
付録② 名作物語『真珠郎』(絵物語風ダイジェスト)
由利・三津木探偵小説集成
真珠郎
著者:横溝正史
編者:日下三蔵
発行日:2018年12月5日 第一刷発行
発行所:柏書房株式会社
定価:本体2,700円(税別)