今週のお題「現時点での今年の漢字」「書」
本をめぐる物語!
『書痴まんが』山田英生・編
SHOCHI MANGA
📖ちくま文庫に注目・・・
ちくま文庫は、「つげ義春コレクション」をはじめ、「現代マンガ選集」、直近では本書や「山岸凉子と読む 楠勝平コレクション」など、活字のみならず、マンガでもすぐれた興味深いアンソロジーを編んでくださるので、クリーム色の背表紙から目が離せません!!
📖「書痴」とは・・・
「書痴」の意味を辞書からひもといてみましょう。
📖広辞苑より
本ばかり読んでいる者をののしっていう語。
📖goo辞書より
1 読書ばかりしていて、世の中のことにうとい人。
2 書物の収集に熱中している人。ビブリオマニア。
📖「書痴まんが」の表紙・・・
この表紙のイラストとデザインは秀逸ですね。諸星大二郎ファンならずとも思わず手にとってしまうでしょう。
書棚の前に「はたき」と文庫らしき「本」を持った流し目の女性。この女性は諸星大二郎氏の『栞と紙魚子』(しおりとしみこ)シリーズに登場する古書店「宇論堂」の娘、紙魚子ですね。背後の書棚には「妖怪ハンター」シリーズの主人公、われらが稗田礼次郎著の「古墳の呪的文様」の背表紙が・・・。
なお本書所収の諸星作品は「栞と紙魚子」シリーズより「殺人者の蔵書印」です。ギャグは抑え目、ややシリアスなホラー風味のミステリーとなっています。
◆表紙イラストはクレジットによると、
カラーイラスト 諸星大二郎
(大阪古書研究会「萬巻」より転載)
となっています。
📖「書痴まんが」とは・・・
書物や本屋をテーマとした初のマンガアンソロジー、以前当ブログでもご紹介していた第一弾「ビブリオ漫画文庫」(2017年刊)に続く、第二弾のアンソロジーである。
著者の解説にもある通り、辞書に載っている意味に限定されず、「本」とその周辺をめぐるミステリー、幻想恐怖譚、奇妙な味のファンタジーに加え、ハートウオーミングな作品などさまざまな物語が収録されている。
文字通りタイトルの「書痴」=ビブリオマニアを体現している作品は、辰巳ヨシヒロ氏の「愛書狂」。
この作品は「ボヴァリ―夫人」などで有名なフローベルの原作をもとに、舞台を日本の古書業界に置き換えてマンガ化したものである。貸本マンガ時代から活躍し、「劇画」という言葉を考案、はじめて使用するとともに、海外でも評価の高い辰巳ヨシヒロ氏により、コンパクトながら見事に愛書家の狂気に至る姿を描き切っている。
ちなみにフローベルの原作はスペインであった実話(ドン・ヴィンセンテ事件、「せどり男爵」ではドン・ヴィンセント)をもとにしており、梶山季之氏の「せどり男爵数奇譚」第5話登場するビブリオクレプト(盗書狂)のストーリーにからめて、せどり男爵の口から語られている。
📖個性的な作品の数々・・・
山川直人氏のずっと探してた本をようやく手に入れた青年に訪れる不思議な出来事を描いたハートウォーミングな「古い本」。
西村ツチカ氏の均一な描線で描かれた都会的な作品「きょうのひと」。
黒田硫黄氏の本屋で出会った不思議な男女の交流を描くSF風味のラブストーリー「男と女」。
若手の作品から、水木しげる氏、永島慎二氏、つげ義春氏など巨匠の作品まで掲載され、絵柄、ストーリー、作風も様々な、読み応えのあるバラエティーに富んだ作品集となっています。各作品が描かれた年代(1970年前後から2010年代)もあると思いますが、「本」という題材と相性がいいのか、過去を舞台としたレトロな作品が多めとなっております。
📖収録作品(目次)
1愛書狂
愛書狂 辰巳ヨシヒロ
きょうのひと 西村ツチカ
古い本 山川直人
2本が運ぶ
新宿泥棒神田日記 うらたじゅん
俺様! こうの史代
屋上読書 魅惑の書店街 船の図書館 「午后のあくび」より コマツシンヤ
ほんのささやかな シリーズ「諸島物語」より 森泉岳土
3奇書と事件
巻物の怪 水木しげる
殺人者の蔵書印 「栞と紙魚子」シリーズより 諸星大二郎
鏡 「悪魔の招待席」より 石原はるひこ
八百屋 「シティライツ」より 大橋裕之
男と女 黒田硫黄
4漫画愛
雨とポプラレター 「ペンだこパラダイス」より 山本おさむ
劇画バカたち!! 第一話 松本正彦
ぼくの手塚治虫先生 永島慎二
おわりに
蒸発 「無能の人」より つげ義春
編者解説
📖参考:関連図書、HP・・・
『書物愛 海外篇』紀田順一郎 編
「愛書狂」ギュスターブ・フローベル著・生田耕作訳 所収
『せどり男爵数奇譚』梶山季之 著
📖大阪古書研究会HP