今週のお題「鬼」
哀しい怪奇譚
『鬼』山岸凉子著
本作品は長編本格バレエ漫画「アラベスク」や、厩戸王子(聖徳太子)を主人公とした「日出処の天子」などの代表作で知られる山岸凉子氏の160ページほどの中編である。怖い作品を数多く描いた山岸作品の中でも、その恐ろしさは群を抜くが、それ以上に哀しさの勝る作品といえるであろう。
天保八年、奥州枯野村。冒頭の場面は、食べるものが無く、草の根っこを奪い合う、子供たち。山あいの村を強風が吹き抜ける。
場面は切り替わり、現代へ。M美大のサークル「不思議圏」は民俗学を研究するサークルである。部員は七名で、今年の合宿は部長の父親の伝手で岩手県の広林寺というところへ行くことに・・・。
飢饉に襲われた村の、直視できない悲惨な出来事と、はからずも寺で修業することになったサークルメンバーが交互に描かれ、やがて両者の存在は交錯していく。そして訪れる癒しと現代の若者たちの優しさと明るさが救いである。
書誌情報
タイトル:鬼
著 者:山岸凉子
発行日:2002年12月25日 第一刷発行
発行所:潮出版社 潮漫画文庫
初 出:「月刊コミックトム」1995年10月~1996年1月号に掲載
「肥長比売(ひながひめ)」「着道楽」所収