謎解き&活劇小説の傑作、復刊!
『なめくじに聞いてみろ』都筑道夫著
著者について・・・
都筑道夫(1929~2003)は、SF、ミステリーなどの翻訳出版で知られる早川書房で「エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン」の編集長を務め、1960年代から本格的に執筆活動に入った推理作家、SF作家である。評論家としても有名で、2001年『推理作家の出来るまで』により、第54回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)を受賞した。
本作品について・・・
1962年、東都書房より発売された当初のタイトルは「飢えた遺産」。本書は1979年の講談社文庫版を底本として、2021年7月15日発行された、全13章の連作長編である。(「講談社文庫創刊50周年」新装版)
物語の幕開けは、夕暮れの銀座4丁目交差点である。信号機が壊れ、混乱する交差点の真ん中で交通整理を行う交番の巡査目がけて、斜めに横断してきた青年は「東京でいちばんぶっそうなところは、どこでしょう?」と尋ねる・・・。
主人公である青年の名は桔梗信治といい、海外で長く研究をつづけた天才科学者である父親が、生前発明した殺人方法(血に飢えた遺産)を伝授した、東京にいると思われる10人を超える殺し屋を抹殺するために探していたのだ。
殺し屋を探しに訪れた西銀座の酒場ゴモラで出会った自動車泥棒の大友、通称ビル(オートモビル)、調査会社「トオキョオ・インフォメイション・センター」の鶴巻啓子、後に出会う、掏りで壺振りの竜子を仲間として殺し屋を探し出す主人公。
殺し屋の正体や技を探る謎解きと、痛快なアクションが本書の大きな魅力であり、加えてスピーディな展開、殺し屋と出会い撃破するまでのテンポは小気味いい。
さらに個性的な登場人物、小粋な会話がいい。描かれる物語の舞台や風俗は時代を感じさせるが、逆に懐古趣味的には興味深い。作品としての面白さは全く色褪せておらず、連作形式のため、一気読みしてもいいし、少しずつ空き時間にちびちびと楽しんでもよい。
作中のセリフ「なめくじに聞いてみろ」について・・・
「なめくじに聞いてみろ」は、主人公が答えたくない質問をされたときに返すセリフ、決まり文句であり、それが本書のタイトルとなっている。
余談ながら、2005年版「このミステリーがすごい!」国内編第一位になった新本格ミステリーの作家、法月綸太郎の作品「生首に聞いてみろ」は、本書「なめくじに聞いてみろ」のタイトルから着想されている。(2005年版「このミステリーがすごい!」貴志祐介との対談より)
巻末の解説、岡本喜八監督、映画化作品について・・・
解説は映画監督の岡本喜八である。本書について、映画の原作としてゾッコン惚れ込んだが、当初権利が他社に渡ってしまったという。その後監督する機会を得て、完成させるも、お蔵入り。その後公開されるという紆余曲折を経て、現在は再評価や人気の高まりもあるようである。映画化作品は未見であるが、スチール写真を見る限り、視覚化されたことにより、より時代をうつした作品となっているようであり、是非観てみたい。映画化タイトル「殺人狂時代」。
関連作品、お薦めの作品・・・
刺客を主人公として、敵の刺客の能力を見破りながら撃破していくという意味で通じるものがあるのは、同著者の後年の作品「暗殺心(アサッシン)」(都筑道夫著、1983年5月 徳間ノベルス刊)、架空の世界を舞台としたヒロイック・ファンタジーである。
また著者やジャンルが異なるが、師匠が作った作品(刀)を、遺言により探し出して消していく(壊していく)というストーリの骨子に通じるものがある「鬼麿斬人剣」(隆慶一郎著、1987年5月 新潮社刊)、無類の面白さを誇る点も共通している。
創元推理文庫版(2014年7月25日 初版)
新潮文庫版(1990年4月25日 初版)
To be continued...(今週のお題「鬼」に続く...)