嵐、ゴルフ、ミステリーの日々2

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1960年代、マンガ表現の地平が切り開かれる『神保町「ガロ編集室」界隈』

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神保町「ガロ編集室」界隈

著 者:高野慎三

発行日:2021年2月10日 第一刷発行

発行所:筑摩書房(ちくま文庫)

カバーイラスト:林 静一

月刊漫画ガロ」とは・・・

 貸本マンガ時代からの忍者劇画で知られる白土三平の作品を中心に、1964年7月に創刊された漫画雑誌である。水木しげる作品も毎号掲載される中、4号から有名な「カムイ伝」の連載が始まり、人気を博す。その後、池上遼一、つげ義春、佐々木マキ、滝田ゆう、林静一など従来のマンガ表現の概念を広げる革新性、抒情性、文学性を兼ね備えた作品を次々と生み出していった。

「神保町「ガロ編集室」界隈」とは・・・

 貸本マンガで白土三平作品と出会った著者は、大学、仕事の関係で神保町を訪れるようになり、白土三平作品を発行、掲載していた青林堂を訪問するようになった。そして1966年5月に青林堂に転職、「月刊漫画ガロ編集室」に勤務することとなった。

 本書は当時の編集長、長井勝一のもと、つげ義春「ねじ式」や滝田ゆう「寺島町奇譚」の誕生に立ち会うなど、ガロ草創期から黄金期ともいうべき1960年後半を中心とした時代を過ごした著者が描く熱い記録である。

 71年12月に同社を退職した著者は、その後、自ら北冬書房を立ち上げ、マンガ・評論雑誌「夜行」を発行し現在に至る。

 

 本書には興味深い記述が多々あるが、特に1968年4月につげ義春が編集室に「ねじ式」の原稿を持ち込んでからの経緯はスリリングである。場合によってはボツ、または掲載が遅れる可能性もあった。そして掲載はされたものの、当初は斬新過ぎて批判もあった「ねじ式」だが、半年もたたないうちに詩人や演劇、映画関係者からの絶賛が始まった。

 またつげ義春氏が著者に「マンガ作法」を一冊分書いてみたいと語ったことがあり、その後実現はされていないが、これも是非読んでみたかった。著者が垣間見た構想については記されており、大変興味深い内容となっている。

 巻末のつげ義春氏のご子息つげ正助氏との対談も、私小説的にも見える作品との違いなどが語られており、非常に面白い。

 1960年代という激動の時代を背景に、マンガ表現の革新、今も面影を残す昭和の神田神保町の風景などが垣間見える貴重な記録であり、非常に面白い読み物にもなっている力作である。

▼本書にも登場する、昔懐かしい気分にさせる喫茶店「ミロンガ」「ラドリオ」の写真は、過去記事よりご覧ください。

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